遺言・相続手続き
相続とは何か
誰か人が亡くなったとき、相続というものが必ず発生します。その亡くなった人が生前に持っていた財産に関する権利義務を法で決められた一定の人が全部ひっくるめて引き継ぐことを相続と言います。このとき、亡くなった人のことを「被相続人」、財産を引き継ぐ人のことを「相続人」と呼んでいます。
「相続」なんて言ってもウチには財産なんかない、家だって借家住まいだし関係ないよ、なんて思っている人がいるかも知れませんが、そのアパートに住む権利だって相続の対象になります。たとえ10円でも100円でも権利は権利ですから相続人に引き継がれるべきものです。権利と同時に義務も引き継ぎます。亡くなった人が生前支払っていたアパートの家賃を支払う義務も相続したら負うことになりますし、仮に親が借金していて、借金を返さないまま死んだ場合、何もせずに置いておくと残された者がそれを引き継いで返していかなければならなくなります。ですので、山やら土地やらお屋敷やらをいっぱい持っている大金持ちの人はもちろん、10円100円を握りしめている人、10円100円どころか逆に借金かかえた人にとっても、つまり今生きているすべての人にとって相続というのはいずれ必ず関係してくる問題であると言えます。
遺言とは
遺言は遺言者がその人生のすべてを込めて伝える、相続人への思いです。 自分がいなくなってしまった後、残された者の幸せをひたすら願い、いらぬ争いが微塵も起きぬことを切に望む。そんな被相続人が取り得る唯一の手段であると言えましょう。
「遺書(いしょ)」と「遺言書(いごんしょ/ゆいごんしょ)」の違い
遺言書を書くことについて「何となく抵抗感がある」と感じてらっしゃる人もいるようです。「遺書を書く」=「死が迫っている」と発想するからでしょう。そんな人たちは恐らく「遺書」と「遺言書」とを混同されているのだろうなあと思います。
遺書とは、人がすぐ目の前に迫った自らの死を認識し、そうなってしまった理由や、「こうしておけばよかった」といった後悔など、どちらかと言えば消極的な内容を書き連ねたメモ書きに過ぎません。仮に家族へのメッセージがそこに記されていたとすれば、それは残された者の心のささえにはなるかも知れません。しかし残念ながらそのメッセージが現実的に何らかの法的な効果をもたらすことはありません。遺書は目の前にある「自分自身の死」に身も心も奪われた状態で書くことになるため、正常な判断力をもって書くことはできないだろうと想像します。
ひるがえって遺言書の場合は「死が迫っている」状態になって書いてはいけませんし、書けるものでもありません。遺言書は自分が去ったあとの法律関係を定めるための意思表示、主には自らが築いた大事な財産の処分方法を書き記すものです。どの財産を誰が受け継ぐのがよいか、と各相続人の幸せな未来を想い描きながら作成する積極的で建設的で現実的な文書なのです。ですからゆったりと落ち着いた状態でしっかりと考えながら書くべきです。
また、意思能力(自分がとる行動の意味や結果を判断することができる精神能力。幼児や泥酔者、失神者には意思能力はないとされる)のない状態で書かれた遺言書は無効になります。高齢者の場合、特に問題となっていますが、不動産など高額な財産の処分に関しては意思能力として、高度の判断力が必要になってくるでしょう。医師や公証人に「遺言する能力はない」と認められてしまうと最早自分の財産を自由に処分することはできないのです。
遺言書は何度書き直してもかまいません。毎年の誕生日に、または11月15日(いい遺言の日)に古い遺言書は廃棄して、今の気持ちを込めた内容へと新たに書き直すのもいいでしょう。自筆証書遺言であれば費用の負担もないのですから。
相続人の調査
相続手続きの中で一番重要な点は「誰が相続人になるのか」ということでしょう。人が亡くなったとき、その人(被相続人)を相続する可能性がある人の範囲を民法は規定しています(法定相続人)。そして、法定相続人の中で実際に財産を相続する人のことを相続人といいます。
民法は法定相続人に以下のような「順位」をつけています。但し、被相続人の配偶者は常に相続人となります。
○第1順位は、子(養子も含む)+配偶者(配偶者がなければ子のみ)です。
○第2順位は、直系尊属+配偶者(配偶者がなければ直系尊属のみ)です。
父母と祖父母がいれば親等の近い者が優先します。
第1順位の人がいないときに相続人になります。
○第3順位は、兄弟姉妹+配偶者(配偶者がなければ兄弟姉妹のみ)です。第1順位、第2順位の人がいないときに、相続人になります。
相続人の調査とは、被相続人と相続人全員の戸籍を集めて、相続人が誰であるかを確定させる作業のことをいいます。
第1順位・第2順位の相続人調査方法
相続人調査の方法は、被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本を揃えることによって行います。これは第1順位の相続人である子の存在の有無、又、存在するのであれば何人いるのかを確定するためです。前婚の子がいたり、婚外子を認知している場合もその事実が戸籍に記載されていますので相続人であることを確認できます。
戸籍は法改正などで新様式のものに改製(昭和32年、平成6年)されているので、高齢者が亡くなった場合の戸籍は少なくとも3〜4通はあり、それをすべて収集する必要があります。
同じ市区町村役場ですべての戸籍謄本が揃う場合もありますが、婚姻によって新しく夫婦の戸籍が作られますし、本籍地を別の市区町村に変えて(転籍)、新しい戸籍を作るなどしていると、あちこちの市区町村役場に戸籍謄本の請求をしなければならない場合もあります。
第3順位の相続人調査方法
被相続人に子がなく、直系尊属(両親や祖父母)が既に亡くなっている場合は、第3順位の相続人(兄弟姉妹)を調査する必要があります。被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本に加えて、被相続人の両親の出生から死亡までのすべての戸籍謄本を揃えなければなりません。
これらの戸籍謄本は、被相続人に第1順位の相続人である子が存在しないこと、そして第2順位の相続人である直系尊属が既に亡くなっていることを確定し、さらに第3順位の相続人である兄弟姉妹が何人いるのかを確定するために必要となります。
遺産の分割方法
遺産分割協議
民法の定めによって決定される相続分は、二分の一だとか三分の一というように全体としての相続財産に対する抽象的な割合を示すものでしかありません。そしてこの相続分も考慮しつつ、相続財産のどの部分を誰が、どれだけ受け取るかということを具体的に決定する過程が「遺産分割」であり、そのための話し合いが「遺産分割協議」です。遺産の分割には相続人全員の合意が必要です。
遺産を分割するには大きくわけて次の三つの方法があります。
代償分割
相続財産が分割に適さない場合に、相続人の1人が自己の相続分を超えてその財産を取得し、他の相続人に対して自己の財産から金銭で代償を支払う方法です。例えば、農家の長男が田んぼや畑をすべて取得し、もらい過ぎた分を自分の預貯金などから弟たちにお金で支払うということです。ただし、この場合は長男が弟たちに支払う現金などを持っている必要があり、もしなければ金融機関から借り入れて支払うというように、実際には困難なこともあります。
換価分割
相続財産を売却処分してお金にかえ、これを相続分に応じて配分する方法です。相続分どおりに分配したいという場合に適しています。ただし、家屋敷で実際に住んでいる不動産を売却するとなると、「愛着のある実家を失ってしまう」「新たに住居を探して移り住まなければならない」「買い手がすぐにつくかどうか」といった問題も考慮する必要があります。
現物分割
相続財産を構成する個々の財産を、相続分に応じて特定の相続人に帰属させる方法です。例えば、「土地と建物は妻に」「銀行預金は長男に」「株式はすべて次男に」というものです。民法の相続分どおり正確に分配できるかどうかは分かりませんが、相続人全員で合意するのであれば一番現実的で苦労も少ない方法と言えましょう。